シンガポールの市場調査をする前に担当者が抑えておきたい基礎知識
シンガポールに進出する企業のご担当者が最低限知っておきたいシンガポールの市場調査に関する基礎知識をまとめてご紹介します。
1 シンガポールの概要データ
東南アジアの10カ国で最も一人あたりGDPの高い裕福な国。シンガポールは国土面積が小さい、東南アジアのマレーシアに隣接するシンガポール島と周辺の島を領土とする共和制国家です。イギリス連邦加盟国で、リークアンユー氏を中心にして都市国家として成長してきました。国名 シンガポール 通称はSingapore 公用語が4言語あるので正式名称も各言語あります。
- Republic of Singapore(英語)
- 新加坡共和国(中国語)
- Republik Singapura(マレー語)
- சிங்கப்பூர் குடியரச(タミル語)
シンガポールは建国以来、人民行動党が議会議席の大多数を占めてきました。またリークアンユー氏を中心とした開発独裁国家であるとも言われていて、国家資本主義体制で同国内の経済成長を優先した政策を実施してきました。
面積
716平方km(日本の東京23区よりやや大きい)シンガポール島(東西42km、南北23km)
人口
541万人(2013年:中央統計局)
首都
シンガポール
言語
シンガポールで話される英語は、シングリッシュ(Singlish)と呼ばれる独特の発音や用語法です。その他にはマレー語、標準中国語、閩南語が混ざった英語になります。公用語は4つあり英語、マレー語、標準中国語=マンダリン、タミル語となります。
宗教
仏教、道教、イスラム教、キリスト教、ヒンドゥー教など多様化しています。
2 シンガポールの民族構成
シンガポールは国民は華人が76.7%、マレーが14%、インド系が7.9%、その他が1.4%となっています。華人、マレー系、インド系からなる多民族で構成されていて各民族の住居配分などにも配慮する政策となっています。シンガポールは、世界でも少子化が進んでいる国の一つ(2012年度1.2)であり、政府は労働力確保のため移民を推進してきました。しかし同国内国民からの反発は根強くあり一党独裁であるシンガポールでは異例の抗議集会が開かれる事件が出始めています。
また一方でシンガポールの移民政策は段階的に変更されてきていて1965年の建国以来 積極的な永住権や就労ビザの発行による移民、高度人材の受入れを進めてきました。2013年時点で人口のおよそ40%弱が永住権保持者、就労ビザ保持者となっています。しかし、近年は外国人による自国民の就業機会の喪失、交通インフラの渋滞、不動産高騰など不満が増加しているため、海外からの移民へのハードルを引き上げる政策を進めようとしています。
- シンガポールのビザ発給条件である月給下限の引き上げ
- 富裕層移民への永住権付与への優遇政策一部廃止
- 学歴などによるワーキングホリデー規制強化 など移民政策の引き締めを徐々に増やしています。
3 シンガポールの経済成長率
シンガポールの経済成長率は経済好調を背景にして実質GDP成長率は2011年+6.0%、2012年+1.9% 2013年+4.1%の成長率名目GDP総額は2011年 2723億USドル、2012年2842億USドル、2013年 2957億USドル一人あたりのGDPは 2011年 52,533USドル、2012年 53,516USドル、2013年 54,776USドルとなっています。
※IMF統計データ2013年
シンガポールの1人あたりGDPは2004年は27,047USドルで2008年では39,327USドルと成長を続けています。同国の一人あたりGDPの高さはIMF – World Economic Outlook Databases (2014年10月版)によれば第8位。日本は24位。香港は25位となっています。
同国は各産業の高度化、知識集約型経済への移行を国家命題としていて、外国資本の積極的な誘致を働き掛けてきました。同国では一人あたり人件費も先進国並みであることから資本集約型産業、知識集約型産業、金融事業、研究開発機関、アジア、アセアンの地域統括本部、商社・貿易機能、支援サービスなどの企業での進出が多い国となっています。
結果として資本の拡大、国内産業の高度化が進みましたが外国人の労働者も増加しました。シンガポール政府は今後外国人労働者の伸びを抑え、外国人労働者への過度な依存を抑制する方針を示しています。
シンガポールの総名目GDPの金額(ドルベース)では1126億USドル (2004年) 1899億USドル (2008年)2842億USドル (2012年)と上昇しています。
GDPの産業別構成では製造業646億Sドル、卸小売り業634億Sドル、ビジネスサービス業543億Sドル、金融サービス業423億Sドルなどになっています。
4 シンガポールの政治体制
シンガポールの政体は、立憲共和制となっていて2014年10月時点では元首はトニー・タン・ケンヤム大統領(Tony Tan Keng Yam)になっています。同氏は2011年9月1日就任し同国第7代大統領で、任期6年を務めます。議会制度は一院制で 議会は定数87名与党・人民行動党80議席、野党7議席(労働者党)で任期5年となっています。
また、リー・シェンロン(Lee Hsien Loong、繁体字:李顯龍)氏は2004年から第3代首相、人民行動党書記長へ就任していて、
父親であるリークアンユー氏と同じく権威主義的政治体制、「開発独裁」を体現してシンガポール国家のさらなる経済的繁栄を目指す政策を進めています。
同氏は国父リー・クアンユーの息子であり、客家人でロシア語、マレー語、華語、英語が堪能とされています。”客家”とは原則漢民族であり、そのルーツを辿ると古代中国の中原や中国東北部の王族の末裔であることが多いとされています。また東洋のユダヤ人とも言われ、戦乱から逃れるため中原から南へと移動、定住を繰り返し生活基盤を移動して東南アジアなどで
活躍する場所を見い出した民族であるとされ、タイのタクシン元首相、台湾の李登輝氏、フィリピンのコラソン・アキノ氏、日本の余貴美子氏なども客家であると言われています。
リー・シェンロン首相は、それまで14年間首相を務めたゴー・チョクトン前首相から2004年に政権を継承していて、1965年の建国以来ずっと与党人民行動党(People’s Action Party:PAP)が多数を維持しています。
2011年5月の総選挙(一院制、任期5年、定数87議席)においては、87議席中、81議席を獲得しました。野党は6議席(改選前は2議席)で、PAPの得票率は60.1%(前回は66.6%)でリーシェンロン氏、与党にとっては厳しい選挙結果となっています。次期選挙は2016年になります。
5 シンガポールの魅力(メリット)とデメリット
シンガポールの魅力
- 一人あたりGDPはアセアン最大国
- 中継貿易、製造業(国家政策で30%を維持する)など経済推進を優先
- 法人に有利かつ合理的な税制・法体制・準タックスヘイブン
- 整備されたビジネス環境・法律・金融・インフラ
- 2015年以降のアセアン経済共同体(AEC)の拠点
- 富裕層マーケットの規模などの好材料が列挙されます。
- テマセク、GICなど国策投資会社による国富の獲得
それ以外にもF1の開催、マリーナベイサンズなどカジノ誘致、バイオ研究など
シンガポールの国力を上げる政策を次々と実施しています。
シンガポールの懸念材料
- 人材コストの高さ、不動産賃料の高さ
- 海外からのビザ取得、労働許可取得のハードルの高さ
- 焼畑農業によるヘイズ問題
- 与党人民行動党への政策不満
- 高額の自動車取得コスト、道路制限などがあります。
また国内の不満を和らげるため富裕層への優遇から投資家、起業家、大企業への優遇、研究家の誘致へ方針を重視するなどシンガポールの国力強化を目指すための政策を進めています。
6 シンガポールの財閥
シンガポールでは華僑系財閥、政府系・国策投資会社としてテマセク・ホールディングスGICの2つの投資会社、外国系の財閥があり、様々な分野で国内海外問わず展開しています。
リークアンユー・ファミリーの政府系とした企業群
- Government of Singapore Investment Corporation(GIC)シンガポール政府投資公社
- Temasek Holdingsテマセク・ホールディングス
- Singapore Telecommunications(SingTel)シンガポール・テレコム
- DBS Bank(DBS)DBS銀行
- Singapore Airlines (SIA)シンガポール航空
ケズウィック・ファミリーKeswick Familyが所有する香港英国系財閥
- Jardine Strategic ジャディン・ストラテジック ジャディン持ち株会社
- Jardine Matheson ジャディン・マーソン 複合企業 コングロマリット
- Jardine Cycle & Carriage ジャーディン・サイクル・アンド・キャリッジ 自動車
- Mandarin Oriental Hotel Group マンダリン・オリエンタル・ホテル ホテル運営
ロバート&フィリップ・ウン・ファミリー Robert & Philip Ng Family 華人系財閥
- Far East Organization ファーイースト・オーガニゼーション 不動産開発大手
- Yeo Hiap Seng ヨー・ヒャップセン 飲料・食品大手
- Far East Orchard ファーイースト・オーチャード 不動産開発
- 信和集団:Sino Group 香港の不動産開発大手
Ng Teng Fong氏は故人
クー・テクプアット・ファミリー Khoo Teck Puat Family 華人系財閥
- Goodwood Hotel Group グッドウッド・ホテル・グループ ホテル大手
- Standard Chartered スタンダードチャータード銀行 金融大手
Khoo Teck Puat氏は故人
ウィー・チョヤウ・ファミリー Wee Cho Yaw Family 華人系財閥
- UOB Bank 大華銀行 UOB銀行(UOB) 金融大手
- United Industrial Corporation(UIC) ユナイテッド・インダストリアル・コープ 不動産
- Singapore Land シンガポール・ランド
クェック・レンベン・ファミリー Kwek Leng Beng Family 華人系財閥
- Hong Leong Group Singapore ホンリョングループ・シンガポール
- City Developments Limited(CDL) シティ・ディベロップメンツ 不動産開発大手
- CDL Hotels CDLホテル ホテル運営
- Hong Leong Finance ホンリョン・ファイナンス 金融
クウェーブラザー・ファミリー Kwee brothers Family
- Pontiac Land Private ポンティアク・ランド 未上場 ホテル・不動産開発
- 高級ブランドホテルのシンガポール・リッツカールトン リージェント、コンラッド・センテニアルなど
ゴー・チェンリャン・ファミリー Goh Cheng LiangFamily 華僑系財閥
- Wuthelam Group ウテラム・グループ 塗料生産大手
リーセン・ウィー・ファミリー 李成偉 Lee Seng Wee Family 華僑系財閥
- Oversea-Chinese Banking Corp オーバーシーチャイニーズバンク(OCBC) 銀行3位
ラジャ・クマール&キシン・ファミリー Raj Kumar &Kishin RK Family
- RB Capital Pte. Ltd., RBキャピタル・シンガポール 不動産大手
ロバート・クーンホン・ファミリー Kuok Khoon Hong:Robert Kuokの甥 華僑系財閥
- Wilmar International ウィルマー・インターナショナル
7 シンガポールの上位20社ランキングと時価総額
2012年4月が発表されています。
- SingTel シングテル 携帯電話キャリア1位
- Jardine Strategic ジャディン・ストラテジック ジャディン持ち株会社
- Jardine Matheson ジャディン・マーソン 複合企業 コングロマリット
- Prudential Plc プルディンシャル 金融・保険サービス
- DBS Group DBS銀行グループ 金融1位
- Wilmar ウィルマー・インターナショナル 農園・プランテーション1位
- OCBC Bank OCBC銀行 金融2位
- UOB Group UOB銀行 金融3位
- Genting Singapore ゲンティン・シンガポール リゾート開発1位
- Keppel Corp ケッペル・コーポレーション 建設1位
- HK Land HKランド 不動産大手
- Dairy Farm デイリー・ファーム 食品大手
- Jardine C&C ジャルディンC&C 自動車
- SIA : Singapore International Airline シンガポール国際航空 航空業界1位
- Capitalland キャピタルランド 住宅不動産1位
- Semcorp Marine セムコープ・マリーン 海運
- F&N F&N 飲料1位
- GLP Global Logistic Properties 政府系不動産
- ST Engneering STエンジニアリング ゼネコン大手
- CityDevelopment シテイ・デベロップメント 不動産開発
シンガポール証券取引所(SGX)全体の時価総額は8081億Sドル(52兆5265億円)でマイナス95億Sドル(6175億円)になったとしています。
8 シンガポールの歴史
シンガポールの歴史は古くは漁村として”テマセックTemasek”として続き、14世紀末にはサンスクリット語で「ライオンの町」を意味する”シンガプーラSingapura”という名称が定着しました。その後、マレー半島南岸で15世紀から16世紀初頭にかけて栄えたマレー系イスラム港市国家「マラッカ王国」が1511年にポルトガルの侵攻を受け滅亡し、シンガポールも荒廃します。
その後、1819年イギリス東インド会社のラッフルズがジョホール王国より土地を買収。商館建設の許可を得て名称を英語風のシンガポールと改めて、自由貿易化と都市化計画を進めました。1824年には植民地としてジョホール王国から正式に割譲、オランダもイギリスによる植民地支配を認めることになりました。その後はインドやオーストラリア、中国大陸などとの貿易中継地として大きく発展。多くの移民がマレー半島、シンガポールへ渡来して多民族国家の起源となりました。
1941年12月日本が太平洋戦争に突入するとシンガポールのイギリス極東軍は日本陸軍と交戦。1942年2月にイギリス側が降伏。シンガポールは「昭南島」と改名されました。1945年に日本敗戦により第二次世界大戦が終結。
その後イギリスが再び占領下としたものの、マレー半島における独立運動が強くなり1957年にマラヤ連邦:Persekutuan Tanah Melayuが独立します。1959年6月にシンガポールはイギリスの自治領(State of Singapore)となり1963年にマラヤ連邦、ボルネオ島のサバ・サラワク両州とともに、マレーシア連邦(Malaysia)を結成。
マレー人優遇政策を採ろうとするマレーシア中央政府と、イギリス植民地時代に流入した華人が占めるシンガポール人民行動党(PAP)の間で軋轢が激化。マレーシアのラーマン首相とシンガポールのPAPのリー・クアンユー氏の両首脳の合意で1965年8月マレーシア連邦から追放される形でシンガポールは都市国家として分離独立しました。
9 シンガポールの3つの大きな特徴
東南アジアの一角を占めるシンガポールでは3つの大きな特徴があります。
- アセアンの最大の経済成長・先進国
- 開発独裁政策と多民族社会
- 進むシンガポールの開発と隣国マレーシア・ジョホールバルの関係性
1)アセアンの最大経済成長・先進国
世界銀行の統計によると、2013年のシンガポールのGDPは2,979億ドル。東南アジアではインドネシア(8,683億ドル)、タイ(3,872億ドル)、マレーシア(3,124億ドル)に次ぐアセアン域内4位の数字です。5位はフィリピン(2,720億ドル)、ベトナム(1,713億ドル)。
また同年の一人当たりのGDPは54,775ドルであり、この数字は世界でも上位ランクに入ります。ビジネス環境ランキングや国際ビジネス競争力が非常に強い国で、ほぼ毎年上位のランキングに入ります。
- シンガポールの税制は法人税 最大17%
- キャピタルゲイン税 非課税
- 個人所得税 最大20%
住民税 非課税 相続税 非課税など準タックスヘイブンの扱いで多くの富裕層がシンガポールへの移住を決め、増加してきました。
また法人設立の手続きや地域統括会社への優遇策、政府からの支援など、アジア圏でのビジネスには有利な環境で進出が可能になっています。商慣習、行政手続きなども合理的かつ不正がない厳密な法治国家で、先進国レベルのビジネスしやすい環境です。
金融ではシンガポール証券取引所(SGX)がアセアン最大の証券取引所となり2012年末時点時価総額が6,646億USドルになります。同証券取引所は1999年にStock Exchange Of Singapore:SESとSingapore International Monetary Exchange:SIMEXの2つの組織が合併して誕生した証券取引所です。代表的な指数はストレーツ・タイムス指数:ST Indexとなります。
また同国内では富裕世帯の割合が世界で最も高く、6世帯に1世帯が金融資産100万ドル以上を保有しているデータもあります。2013年の同国の勤労者世帯の平均世帯月収は10,469シンガポールドルで日本の平均月収を大きく上回る規模となります。
2)開発独裁国家、典型的な国家資本主義体制
資源も水も無い、国家としてスタートしたシンガポール。税制や法制度など海外企業が進出しやすい環境を整え、ビジネスの透明性を確保し、成長を続け アセアンの玄関口としての地位を確立しました。
富裕層の誘致や優秀な人材を確保するための政策を打ち出し、一方で優秀では無い海外からの人材流入は厳しく制限しています。シンガポールでは、経済発展のためには政治的安定が必要であるとして、国民の政治参加・発言を厳しく統制していて経済発展を遂げた後も、人民行動党による事実上の一党独裁制が続いています。
ただし、シンガポールの開発独裁システムは他の国と異なり徹底した依法主義(リーガリズム)でリークアンユー政権、人民行動党への批判的な発言・記事に対してのリーガルアクション、損害賠償請求などで統制を続けています。
3)進むシンガポールの開発と隣国マレーシア・ジョホールバルの関係性
シンガポールの隣接するジョホーバルでは2006年より大規模な開発計画「イスカンダル・マレーシア」が進められ、シンガポールの好調な経済発展の影響もありこの地域では急速な発展を遂げています。同開発地域の面積は、シンガポールの約3倍にあたる2217平方kmで5つの開発区域に分類され
A 行政や金融(ジョホール中心地区)
B 居住区、商業区(ヌサジャヤ地区)
C 物流地区 (タンジュンプルパス港周辺区)
D 製造業地区 (タンジュンランサット工業団地+パシルグダン工業団地)
E ハイテク産業区(スナイ空港周辺)
等を開発し同地域の累計投資額は1000億リンギに到達しようとしています。
また、これまで積極的では無かったシンガポール側からの投資も、2013年2月、シンガポール・クアラルンプール間の高速鉄道の建設に合意しマレーシアのナジブ・ラザク首相とシンガポールのリー・シェンロン首相はシンガポールとクアラルンプールとの間に高速鉄道:High Speed Rail(HSR)を2020年の完成をめどに建設することで合意しました。現在、シンガポール・クアラルンプール間は飛行機で40分程度掛かるものの、高速鉄道計画では両都市中心部まで90分間で結び、時速は300キロ超を想定しています。
この両国との連結計画はいずれタイやメコン経済圏への連結・開発プロジェクトへ進む可能性が高く、2015年のASEAN共同体実現を控えてアセアン先進6カ国(シンガポール、マレーシア、タイ、インドネシアフィリピン、ブルネイ)、アセアン後進4カ国(ベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマー)からの統合経済圏、シンガポール+マレーシア、将来的な+(メコン経済圏)も大きな発展性・可能性を秘めています。
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